現場代理人を10年やってきました。
第一種電気工事士に、1級電気施工管理技士、監理技術者。資格の上では、この業界でやれることはだいたいやってきたつもりです。会社でも社長に可愛がってもらって、自分にしか任せられない仕事をやらせてもらう、そういう立ち位置にいました。
10年もいると、いろんな人と現場をともにします。その中で、今でもときどき思い出す同僚がいます。
今日はその人の話をします。転職をすすめる話でも、会社の悪口でもありません。ただ、いま同じ現場で働いている人に、ちょっと考えるきっかけになればと思って書いています。
「あの場所は、こう施工するんだ」と話す人でした
私と同い年の同僚がいました。入社は彼のほうが一年先輩です。現場が一緒になったこともありました。
正直に言うと、賢いタイプではなかったです。要領がいいわけでもない。でも、先輩に言われたことを、失敗を怖がらずに一生懸命やる人でした。うまくやろうと考えるより先に、体が動く。そういう職人だったんです。
よく覚えているのは、彼がとにかく仕事の話をしていたことです。こっちが聞いてもいないのに、「あの場所は、こう施工するんだよ」って教えてくれる。現場が楽しくてしょうがない、そんな感じでした。
一度、一緒に飲んだときに、彼がぽろっとこう言ったことがあります。
「電気工事、楽しいんだよな」
お酒が入って、力が抜けたときの一言でした。かっこつけた言葉じゃない。これは本音だなって、はっきり分かりました。
こういう人がいる現場は、いいものです。仕事を好きな人間がひとりいるだけで、まわりの空気も少し変わる。私はそう思っていました。
いい現場は、人でできている
電気工事の仕事そのものは、私は今でもいいものだと思っています。
図面を読んで、段取りを組んで、自分の手で建物に灯りをともす。目に見える形で「できた」が残る仕事です。彼が「楽しい」と言った気持ちは、私にもよく分かりました。
ただ、現場が楽しいかどうかは、仕事の中身だけでは決まりません。
結局は、人なんです。誰と組むか。上がどう動くか。同じ作業でも、まわりの人間関係ひとつで、天職にもなれば、つらいだけの場所にもなる。10年やってきて、これはもう間違いないと思っています。
彼の場合、そのバランスが、ある時期から崩れていきました。
環境は、人を変えてしまう
彼のいた現場に、あまりうまく噛み合わない先輩が入ってきました。詳しくは書きませんが、一生懸命やる人間の隣に、そうでない人間がいる。現場ではときどき起きることです。
まっすぐな人ほど、こういう状況に消耗していきます。
彼にとって「楽しい」だったはずの現場が、だんだんそうじゃなくなっていくのが、そばで見ていて分かりました。あんなに仕事の話をしていた人が、口数が減っていく。それは、見ていてつらいものでした。
そして最終的に、彼は会社を離れることになりました。
私が今でも引っかかっているのは、彼が抱えていたものに、会社がもっと早く気づいて動けなかったのか、ということです。社内の人間なら、何が起きているか、みんな薄々分かっていたはずなんです。
尊敬していたからこそ、思うこと
正直に書くと、いちばんこたえたのは、彼が辞めたことそのものよりも、尊敬していた社長が動かなかったことでした。
私は社長のことが好きでした。男らしい人だと思っていたし、経営者として尊敬もしていた。だからこそ、「あの人なら、なんとかしてくれる」とどこかで期待していたんだと思います。
もし自分が上の立場だったら、あんなに仕事を好きな人材を、みすみす手放したくない。守るために、動く。そうあってほしかった。ただ、それだけだったんです。
でも、これは今だから言えることでもあります。当時の私自身、そばで見ていながら、彼のために何かできたかというと、できていなかった。だから、これは社長への不満であると同時に、自分への宿題でもあります。
誰かの現場が、少しでも良くなればと思う
もし今、あの頃の彼みたいに、一生懸命やっているのに現場が楽しくなくなっている人が、これを読んでいたら。
私は「すぐ逃げろ」とは言いません。
まずは、正面から伝えてみてほしいんです。何がつらいのか、何を変えたいのか。ひとりで抱えこむ前に、言葉にして伝える。案外、それで動くこともあります。伝える相手を間違えなければ。
そして、もしあなたが誰かの上司や先輩なら。しんどそうな部下がいたら、声をかけてあげてほしい。一緒に上に掛け合ってあげたっていい。当時の私にはできなかったことです。だからこそ、今なら言えます。
ひとりの力で現場は変えられなくても、ひとりが動くことで、救われる人はいます。
さいごに
私はあのあと、しばらくして会社を辞めて、今は電気の現場を離れ、別の仕事をしています。それでも、この仕事で学んだことは、今の自分の土台になっています。
彼が飲みの席でこぼした「電気工事、楽しいんだよな」という一言も、今でもときどき思い出します。
あの言葉は、間違っていなかったと思うんです。仕事は、楽しかった。問題は仕事じゃなく、それを楽しめる環境をどう守るか、だった。
この業界には、彼みたいに仕事を心から好きな人が、たくさんいます。その人たちが、ちゃんと「楽しい」と言い続けられる現場が増えたらいい。10年やってきた人間として、本気でそう思っています。
※この記事は、私自身の現場代理人としての経験をもとに書いています。登場する人物が特定されないよう、細部は変えています。
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